本資料は、米バイオジェン社が 2021年7月29日(現地時間)に発表したプレスリリースの日本語訳として発表させていただくものです。内容につきましては原本である英文が優先します。

 

Lecanemab(BAN2401)の臨床効果についてアルツハイマー病協会国際会議2021(AAIC2021)のLate Breakingとして発表

Lecanemabの臨床第Ⅱ相POC試験後のOpen Label Extension試験における18ヵ月投与の臨床効果に関する予備解析結果をAAIC2021において発表

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク(Nasdaq: BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:ミシェル・ヴォナッソス、以下 バイオジェン)は、2021年7月26日から30日に米国コロラド州デンバーおよびバーチャルで開催されたアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference: AAIC)2021において、米国食品医薬品局(FDA)からブレイクスルーセラピーの指定を受けた抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemab(開発コード:BAN2401)について、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)および軽度認知症(総称して早期AD)を対象とした臨床第Ⅱb相POC(Proof of Concept:創薬概念の検証)試験後のOpen-Label Extension(OLE:非盲検継続投与)試験における18ヵ月投与の臨床効果の予備解析結果を口頭発表しました。【発表番号:57780】

Lecanemabの201試験およびOLE
Lecanemabは、可溶性のAβ凝集体であるプロトフィブリルに優先的に結合するヒト化モノクローナル抗体です。早期ADを対象とした臨床第Ⅱb相POC試験(201試験、856人)の18ヵ月投与(コア試験)において、脳内Aβ量の減少と臨床症状の進行抑制を示しました(Alz Res Therapy 13; 2021)。201試験のコア試験終了後、9〜59ヵ月の無投与期間(ギャップ期間、コア試験におけるlecanemabの最後の投与からOLEの投与開始までの期間:平均24ヵ月)後に、lecanemab 10mg/kg 静脈注射(IV) biweekly投与を評価するOLEが実施されました(コア試験に参加された方から180人が登録)。Lecanemab治療による臨床効果は、コア試験の主要評価項目であるADCOMS*(Alzheimer’s Disease Composite Score)の調整後平均変化によって評価されました。また、CDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)およびADAS-Cog(Alzheimer’s Disease Assessment Scale – Cognitive Subscale)でも評価されました。

* ADCOMSは0.00~1.97のスコアで評価され、スコアが高い方がより臨床症状の進行を示す。

疾患修飾効果の可能性を示唆
201試験OLEの投与開始時に早期ADの段階にあった被験者様においては、コア試験におけるlecanemab投与による用量依存的な臨床効果の差がギャップ期間中も維持され、コア試験でlecanemab 10mg/kg IV投与を受けた被験者様は、プラセボ投与を受けた被験者様との臨床症状の差を維持したまま推移しました。ギャップ期間(コア試験後のフォローアップ時とOLEの投与開始時の間)のADCOMSによる調整後平均変化は、biweekly投与で0.11(0.07から0.18)、monthly投与で0.10(0.12から0.22)、プラセボ投与で0.09(0.19から0.28)の増加(臨床症状の進行)でした。CDR-SBとADAS-Cogにおいても同様の結果が観察されました。ギャップ期間中、コア試験期間におけるすべての投与群の被験者様において、主な臨床症状評価項目による臨床症状の進行は同程度でした。これはlecanemabの潜在的な疾患修飾効果を示唆しています。

血漿中Aβ42/40比とPETによる脳内アミロイド、および治療との関係の可能性
血漿中Aβ42/40比の低値は、脳内アミロイドの上昇の指標と認識され、201試験のサブセットとして評価されました1。血漿中Aβ42/40比は、lecanemabの投与を受けた被験者様において、コア試験期間中およびOLE期間中に増加し、ギャップ期間中には減少することから、血漿中Aβ42/40比とlecanemabによる治療の関連を示している可能性があります。Lecanemab治療に関連する血漿中Aβ42/40比における増加は、コア試験およびOLEにおける治療に関連する脳内アミロイドの減少と逆相関しました(ポスター番号:57760)。

Lecanemabの治療継続による長期的なベネフィットの評価
OLEの投与開始時に早期ADの段階にあった被験者様は、コア試験においてプラセボの投与を受けOLEにおいてはじめてlecanemabが投与された被験者様、およびコア試験とOLEの両方でlecanemabが投与された被験者様のいずれにおいても、自然経過による病勢進行より緩やかな臨床症状の進行が示されました(米国でのADNI(Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)研究結果における同様の背景集団を参考)。コア試験における10mg/kg biweekly投与群、10mg/kg monthly投与群、プラセボ投与群の被験者様のOLEのベースラインからlecanemab投与18ヵ月時点におけるADCOMSの調整後平均変化は、それぞれ0.102、0.165、0.07であり、ADNIの観察データ(0.214)よりも臨床症状の進行は緩徐でした。CDR-SBとADAS-Cogでも同様の結果が観察されました。これらの結果は、lecanemab投与を早期ADの段階から開始した場合の長期治療継続によるベネフィットの可能性を支持しています。

なお、これらの予備的な知見は、限られたデータに基づいているため、現在進行中の早期ADを対象とした臨床第Ⅲ相Clarity AD試験においてさらなる評価を行う予定です。

エーザイ ニューロロジービジネスグループのチーフクリニカルオフィサーであるLynn Kramer, M.D.は、「Lecanemabの臨床第Ⅱb相OLE試験の結果は、抗アミロイド療法の結果に対するさらなる洞察をもたらす有望なものであり、現在進行中の臨床第Ⅲ相試験であるClarity AD試験およびAHEAD 3-45試験から、さらなる知見が得られることを期待しています。医学的知見、データ分析、および技術進歩が前例のない融合をもたらし、AD研究は極めて重要な時期を迎えています。そのような中で、当社は、ADの連続する病勢進行に応じた個々の患者様の病態生理学的バイオマーカープロファイルに基づく治療パラダイムとなる、精密化医療研究に向けたアプローチを進めており、患者様とそのご家族のための新しいソリューションを研究開発するという当社独自のポジションの確立が可能となっています」と述べています。

バイオジェンの研究開発責任者であるAlfred Sandrock, Jr. M.D., Ph.D.は、「OLEの結果は、ADにおけるAβ病理への取り組みの可能性に対する私たちの確信をさらに強化するものです。エーザイと継続的に協力してlecanemabの研究を進め、AD当事者の高いアンメット・ニーズに対処するパイオニアであり続けることを期待しています」と述べました。

Lecanemabについては、現在、臨床第Ⅲ相試験(Clarity AD)が進行中であり、2021年3月に1,795人の早期アルツハイマー病の被験者登録を完了し、2022年9月末までにPrimary endpointの取得をめざしています。また、プレクリニカルAD当事者様における効果を検証する臨床第Ⅲ相試験AHEAD 3-45試験が進行中です。

本発表に関する動画および発表資料は、エーザイのコーポレートウェブサイトの投資家セクションに掲載されています。

参考文献
  1. Pérez-Grijalba, V., Romero, J., Pesini, P. et al. Plasma Aβ 42/40 Ratio Detects Early Stages of Alzheimer’s Disease and Correlates with CSF and Neuroimaging Biomarkers in the AB255 Study. J Prev Alzheimers Dis 6, 34–41 (2019).
    https://doi.org/10.14283/jpad.2018.41.

参考資料

1.Lecanemab(開発コード: BAN2401)について
       Lecanemabは、BioArctic AB(本社:スウェーデン)とエーザイの共同研究から得られた、可溶性のAβ凝集体(プロトフィブリル)に対するヒト化モノクローナル抗体です。lecanemabは、ADを惹起させる因子の一つと考えられている、神経毒性を有するAβプロトフィブリルに選択的に結合して無毒化し、脳内からこれを除去することでADの病態進行を抑制する疾患修飾作用が示唆されています。早期ADを対象とした大規模臨床第Ⅱ相試験(201試験)においては、世界で初めて後期臨床試験として臨床症状評価による進行抑制と脳内Aβ蓄積量の減少を統計学的有意差をもって達成し、疾患修飾効果を示しました。エーザイは、本抗体について、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるアルツハイマー病を対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を獲得しています。現在、臨床第Ⅱ相試験(201試験)の非盲検投与延長試験および早期ADを対象とした検証用の一本の臨床第Ⅲ相試験(Clarity AD)を実施中です。また、2020年7月に、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を開始しました。National Institutes of Health、National Institute on Agingは、AHEAD 3-45試験(A45 TrialおよびA3 Trial)に資金を提供しています。2014年3月に、エーザイとバイオジェンはlecanemabに関する共同開発・共同販促に関する契約を締結し、2017年10月に内容の一部変更契約を締結しています。

2.エーザイとバイオジェンによるアルツハイマー病領域の提携内容について
       エーザイとバイオジェンは、アルツハイマー病治療剤の共同開発・共同販売にする提携を行っています。lecanemabについては、エーザイ主導のもとで共同開発を行い、抗Aβ抗体であるアデュカヌマブについては、バイオジェン主導のもとで共同開発を行います。

3.エーザイとバイオアークティックによるアルツハイマー病領域の提携について
       2005年以来、バイオアークティックはAD治療薬の開発と商品化に関してエーザイと長期的な協力関係を築いてきました。2007年12月にlecanemabの商品化契約を締結し、2015年5月にAD用抗体lecanemabバックアップの開発・商品化契約を締結しました。エーザイは、AD向け製品の臨床開発、市場承認申請、商品化を担当しています。 バイオアークティックには、ADにおけるlecanemabの開発コストはありません。

4.エーザイ株式会社について
       エーザイ株式会社は、本社を日本に置くグローバル製薬企業です。当事者とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)・コンセプト」を企業理念としています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患をターゲットに革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
エーザイは、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症治療剤「アリセプト®」の開発・販売から得た経験を活かし、エーザイ認知症プラットフォームの確立を企図し、医療機関、診断薬開発企業、研究機関やバイオベンチャーに加え、民間保険、金融、フィットネスクラブ、自動車メーカー、小売業、介護施設などと連携して、新たな便益をお届けする「認知症エコシステム」の構築をめざしています。エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。

5.バイオジェンについて
       神経科学領域のパイオニアであるバイオジェンは、最先端の医学と科学を通じて、重篤な神経学的疾患、神経変性疾患の革新的な治療法の発見および開発を行い、その成果を世界中の患者さんに提供しています。1978年にチャールズ・ワイスマン、ハインツ・シェイラー、ケネス・マレー、ノーベル賞受賞者であるウォルター・ギルバートとフィリップ・シャープにより設立されたバイオジェンは、世界で歴史のあるバイオテクノロジー企業であり、多発性硬化症の領域をリードする製品ポートフォリオを持ち、脊髄性筋萎縮症の最初の治療薬を製品化いたしました。また、多発性硬化症および神経免疫疾患、アルツハイマー病および認知症、神経筋障害、運動障害、眼疾患、免疫疾患、神経認知障害、急性神経疾患および疼痛といった神経領域の研究においても最先端の活動を展開しています。バイオジェンは生物製剤の高い技術力を活かし、高品質のバイオシミラーの製品化にも注力しています。バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/ およびSNS媒体TwitterLinkedInFacebookYouTubeをご覧ください。

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