本資料は、米バイオジェン社が 2021年9月28日(現地時間)に発表したプレスリリースの日本語訳として発表させていただくものです。内容につきましては原本である英文が優先します。

 

エーザイは、抗アミロイドβプロトフィブリル抗体レカネマブ(BAN2401)について迅速承認制度 に基づき、米国FDAに早期アルツハイマー病に対する生物製剤ライセンス申請の段階的申請を開始

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク (Nasdaq: BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:ミシェル・ヴォナッソス、以下バイオジェン)は、このたび、抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体レカネマブ(開発品コード:BAN2401)について、米国食品医薬品局(FDA)に対し、早期アルツハイマー病(早期AD)治療薬として、生物製剤ライセンス申請(Biologics License Application: BLA)の段階的申請(Rolling Submission)プロセスを開始したことをお知らせします。本BLAは、主として、Aβの脳内蓄積が確認された早期ADを対象とした臨床第Ⅱb相試験(201試験)による臨床症状、バイオマーカーおよび安全性データに基づき、迅速承認制度を活用しています。本試験の結果は、レカネマブの高い脳内Aβ除去作用と複数の臨床エンドポイントでの一貫した臨床症状の悪化抑制を示し、その脳内Aβ除去の程度と臨床エンドポイントへの効果との相関は、Aβが臨床的有用性を予測するサロゲートマーカーになり得ることを示唆しています。ADは進行性の深刻な疾患ですが、治療選択肢が限られています。エーザイは、FDAとの協議の結果、迅速承認制度を活用し、早期AD当事者様とそのご家族、医療関係者の皆様に新たな治療オプションを提供することをめざします。

レカネマブは、2021年6月にブレイクスルーセラピーの指定を受けています。ブレイクスルーセラピーは重篤なあるいは命にかかわる疾患に関する薬剤の開発および審査の迅速化を目的としたFDAの制度です。FDAはレカネマブのBLAの段階的申請に同意しており、提出された資料から順次審査が行われることになります。PDUFA(Prescription Drug User Fee Act)アクション・デート(審査終了目標日)は、すべての資料が提出され、FDAが本BLAを受理した時点で設定されます。

本BLAは、主に、Aβの脳内蓄積が確認されたADによる軽度認知障害(MCI)および軽度AD(総称して早期AD)の当事者様856人を対象とし、レカネマブ投与による脳内Aβ量の減少と臨床症状の進行抑制に対する効果を評価するPOC(Proof of Concept:創薬概念の検証)を目的とした、臨床第Ⅱb相試験(201コア試験)の結果に基づいています。本試験結果は2021年4月に査読付き学術誌に発表されまし た1。18カ月のレカネマブ10mg/kg bi-weeklyの投与により、PET画像にて測定した脳内Aβ蓄積量(Standard Uptake Value Ratio; SUVr)をベースライン時の平均1.37ユニットから0.306 ユニット減少させ、被験者の80%以上は読影診断により脳内アミロイド陰性化が確認されました。さらに、治療群間および個々の被験者レベルにおいて、脳内Aβ減少の程度とADCOMS、CDR-SB、ADAS-cogによる臨床症状の悪化抑制は相関していました。なお、10mg/kg bi-weeklyの投与による、アミロイド標的療法に関係する有害事象であるアミロイド関連画像異常(ARIA-E:浮腫/浸出)の発現率は9.9%でした。

201試験(コア期間)の後、投与を休止していたギャップ期間(平均24カ月)を経て開始された201試験のOpen-Label Extension(OLE:非盲検継続投与)試験では参加されたすべての当事者様(180人)に、レカネマブ10mg/kg bi-weeklyが投与されました。投与後3カ月から脳内Aβ(SUVr)を顕著に減少させるとともに、投与12カ月時点では被験者の80%以上が読影診断により脳内アミロイド陰性を達成しました[link]。コア期間中のレカネマブ投与群で観察された脳内Aβレベルの顕著な減少およびプラセボ群との差は、ギャップ期間においても維持されました。なお、ARIA-Eの発現率はコア試験と同様に約10%でした。

レカネマブについては、早期ADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(Clarity AD)が進行中であり、2021年3月に1,795人の被験者登録を完了しました。FDAは、Clarity AD試験の結果について、レカネマブの臨床的有用性の検証試験として評価することに合意しています。また、Clarity AD試験の盲検下における安全性情報についても、本BLAをサポートするデータとして用いられる予定です。

エーザイのCEOである内藤晴夫は、「世界的に人口増加と高齢化が進む中、ADとともに生きる人々が増加しています。ADは、当事者様とご家族だけでなく、社会にとっても、極めて大きな負担を強いる疾患です。さらなる治療体系の早期の確立が強く期待されています。エーザイは、長年にわたりAD当事者様の憂慮を理解することに努め、治療薬の研究開発を続けてまいりました。本BLAによりかかる治療体系の確立に向け新たなマイルストンを刻むことができると考えています。当社はヒューマン・ヘルスケア理念のもと、AD当事者様とそのご家族に新たな治療オプションを一日でも早く提供できるように取り組んでまいります」と述べています。

レカネマブの201試験結果の論文の著者であり、ネバダ大学ラスベガス校チェンバーズ-グランディトランスフォーメーション神経科学センターのJeffrey Cummings医学博士は、「ADコミュニティーは、この重大な神経変性疾患の当事者様の方々に、より多くの治療選択肢を創出する科学的進歩を歓迎しています。レカネマブの臨床第Ⅱb相試験で示された有効性と安全性の結果、およびOLE試験の予備的結果に基づき、早期ADの当事者様が直面する症状の進行を改善するための治療選択肢としてのレカネマブの可能性に期待しています」と述べています。

バイオジェンのCEOであるミシェル・ヴォナッソスは、「患者さんとそのご家族が、ADの複数の治療オプションから選択し、利用できるようになることが我々のビジョンです。今回の迅速承認制度のもとでのレカネマブの段階的申請は、その重要な一歩です。我々は、脳内Aβをターゲットとした治療法は、ADの診断と治療を変える可能性があると信じています。今後もエーザイと協力し、科学と知識を進歩させ、AD患者さんのニーズにお応えしてまいります」と述べています。

ADCOMS - Alzheimer’s Disease Composite Score. CDR-SB - Clinical Dementia Rating-Sum-of-Boxes.
ADAS-cog - Alzheimer Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale

以上

 

参考資料

1.レカネマブ(開発品コード: BAN2401)について
       レカネマブは、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、可溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体(プロトフィブリル)に対するヒト化モノクローナル抗体です。レカネマブは、ADを惹起させる因子の一つと考えられている、神経毒性を有するAβプロトフィブリルに選択的に結合して無毒化し、脳内からこれを除去することでADの病態進行を抑制する疾患修飾作用が示唆されています。早期ADを対象とした大規模臨床第Ⅱ相試験(201試験)においては、事前に規定した18カ月投与における解析の結果は、脳内Aβ蓄積量の減少(p<0.0001)とADCOMS*による臨床症状の悪化抑制(p<0.05)を示しました。なお、12カ月投与時における主要評価項目**は達成しませんでした。201試験(コア期間)の後、投与を休止していたギャップ期間(平均24カ月)を経て、レカネマブ10mg/kg bi-weekly投与の安全性と有効性を評価するOpen-Label Extension試験が進行中です。
エーザイは、本抗体について、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるアルツハイマー病を対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2014年3月に、エーザイとバイオジェンはレカネマブに関する共同開発・共同販促に関する契約を締結し、2017年10月に内容の一部変更契約を締結しています。現在、臨床第Ⅱ相試験(201試験)のOpen-Label Extension試験および早期ADを対象とした検証用の一本の臨床第Ⅲ相試験(Clarity AD)を実施中です。また、2020年7月に、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)と共同で開始しました。AHEAD 3-45試験は、National Institutes of Health、National Institute on Agingによる資金提供を受けています。

* ADCOMS (Alzheimer’s Disease Composite Score):アルツハイマー病コンポジットスコアは、早期ADの変化を感度よく検出することを目的とし、ADAS-cog (Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale)、MMSE (Mini-Mental State Examination)、CDR (Clinical Dementia Rating)の3つの臨床評価尺度を組み合わせたエーザイが開発した評価指標
** 投与12カ月時点においてADCOMSによる臨床症状の抑制がプラセボ投与群に対し25%低下する確率が80%以上とする

2.エーザイとバイオジェンによるアルツハイマー病領域の提携内容について
       エーザイとバイオジェンは、アルツハイマー病治療剤の共同開発・共同販売する提携を行っています。レカネマブについては、エーザイ主導のもとで共同開発を行います。

3.エーザイとバイオアークティックによるアルツハイマー病領域の提携について
       2005年以来、バイオアークティックはAD治療薬の開発と商品化に関してエーザイと長期的な協力関係を築いてきました。2007年12月にレカネマブの商品化契約を締結し、2015年5月にAD用抗体レカネマブバックアップの開発・商品化契約を締結しました。エーザイは、AD向け製品の臨床開発、市場承認申請、商品化を担当しています。バイオアークティックには、ADにおけるレカネマブの開発コストはありません。

4.エーザイ株式会社について
       エーザイ株式会社は、本社を日本に置くグローバル製薬企業です。当事者とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)・コンセプト」を企業理念としています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患をターゲットに革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
       エーザイは、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症治療剤「アリセプト®」の開発・販売から得た経験を活かし、エーザイ認知症プラットフォームの確立を企図し、医療機関、診断薬開発企業、研究機関やバイオベンチャーに加え、民間保険、金融、フィットネスクラブ、自動車メーカー、小売業、介護施設などと連携して、新たな便益をお届けする「認知症エコシステム」の構築をめざしています。エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。

5.バイオジェン・インクについて
       神経科学領域のパイオニアであるバイオジェンは、最先端の医学と科学を通じて、重篤な神経系疾患、神経変性疾患の革新的な治療法の発見および開発を行い、その成果を世界中の患者さんに提供しています。1978年にチャールズ・ワイスマン、ハインツ・シェイラー、ケネス・マレー、ノーベル賞受賞者であるウォルター・ギルバートとフィリップ・シャープにより設立されたバイオジェンは、世界で歴史のあるバイオテクノロジー企業であり、多発性硬化症の領域をリードする製品ポートフォリオを持ち、脊髄性筋萎縮症の最初の治療薬を製品化いたしました。また、多発性硬化症および神経免疫疾患、アルツハイマー病および認知症、神経筋障害、運動障害、眼疾患、免疫疾患、神経認知障害、急性神経疾患および疼痛といった神経領域の研究においても最先端の活動を展開しています。バイオジェンは生物製剤の高い技術力を活かし、高品質のバイオシミラーの製品化にも注力しています。バイオジェンに関する情報については、www.biogen.com/ およびSNS媒体TwitterLinkedInFacebookYouTubeをご覧ください。

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