エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク(Nasdaq:BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:Christopher A. Viehbacher、以下 バイオジェン)は、このたび、抗Aβモノクローナル抗体「レケンビ®」(一般名:レカネマブ)について、オーストリアで8月25日に、ドイツでは9月1日にそれぞれ新発売することをお知らせします。本剤は、2025年4月にアルツハイマー病の根本原因を標的とする初めての治療剤として、「アミロイド病理が確認されたApoEε4*が非保有またはヘテロ接合体である成人におけるアルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)または軽度認知症(総称して早期AD)の治療1」の適応で、欧州委員会(European Commission)より承認を取得しました。今回の発売は、欧州連合(EU)加盟国での初めての発売となります。
欧州委員会からの承認取得後、各国当局と連携して発売に向けた承認要件の整備を進め、今回、オーストリアとドイツにおいてControlled Access Program**の整備が完了したことから発売が可能となりました。
ADは、Aβおよびタウを病理上の特徴とする進行性の疾患です。ADは、時間の経過とともに段階的に進行して重症度が増し、その疾患の段階によってAD当事者様と介護者にそれぞれ異なる困難をもたらします。AD当事者様と社会の負担を軽減するため、早期ステージから治療を開始し、投与を継続することでADの進行を遅らせる新しい治療オプションに対して、大きなアンメット・ニーズが存在します。「レケンビ」は、プロトフィブリル***とアミロイドプラークの双方をターゲットとする唯一のAD治療剤で、その後のタウ蓄積にも影響を与えることが期待されます。
Clarity AD試験では、EUにおける適応の対象集団(ApoEε4が非保有またはヘテロ接合体の被験者†)において、18カ月間のレカネマブ投与群(n=757)は、プラセボ投与群(n=764)と比較して主要評価項目であるCDR-SBで臨床症状の悪化を31%抑制しました1。
安全性に関して、EUの適応の対象集団におけるレカネマブ投与群(n=757)で最も多く見られた有害事象は、Infusion reaction(26%)、ARIA-H(13%)、頭痛(11%)、ARIA-E(9%)でした。症候性のARIA-Eの発現率は2%、症候性のARIA-Hは0.8%でした1。
エーザイは、本剤の開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。北欧諸国を除くEUにおいては、エーザイおよびバイオジェンが共同販促を行い、エーザイが販売承認取得者として本剤を販売します。
* ApoE(アポリポプロテインE)は、人間の脂質代謝に関与するタンパク質で、ADに関与していると考えられています。ApoEε4遺伝子を1つだけ持つ人(ヘテロ接合体)やApoEε4遺伝子を持たない人(非保有者)は、ApoEε4遺伝子を2つ持つ人(ホモ接合体)よりもARIAを発症する可能性が低くなります2。ARIAは、脳の腫れや出血を引き起こす可能性のある、レカネマブの重要な副作用とされています1, 2。
** Controlled Access Programは、特定の医薬品に対して患者様の安全性を確保しつつ、医薬品の適正使用を促進するために、使用や流通を制限する制度であり、欧州委員会の要件に従い、レカネマブによる治療開始はControlled Access Programの一環として中央登録システムを通じて行う必要があります。
*** プロトフィブリルは、ADによる脳損傷に寄与し、この進行性の深刻な疾患の認知機能低下に主な役割を果たす、最も毒性が高いAβ種であると考えられています。プロトフィブリルは脳内の神経細胞の損傷を引き起こし、その結果、複数のメカニズムを介して認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります3。そのメカニズムとして、不溶性アミロイドプラークの発生を増加させるだけでなく、神経細胞やその他の細胞間のシグナル伝達に直接的な損傷を起こすことも報告されています。プロトフィブリルを減らすことで、神経細胞への損傷や認知機能障害を軽減させ、ADの進行を防ぐ可能性があると考えられています3, 4。
† 規制当局の要請により、ApoEε4非保有またはヘテロ接合体の被験者に対する有効性解析は、プラセボ群の実際の値を基にして算出したビジット間の変化で欠測値を補完する対照群ベースの多重代入法(コピーインクリメント法)を使用して実施されました5。この方法論は、欠測値がランダムであると仮定した反復測定効果混合モデル(MMRM)を使用したClarity AD試験の主要解析で使用された方法論2とは異なります。
以上
参考資料
1. レカネマブ(一般名、製品名:「レケンビ」、米国ブランド名:「LEQEMBI®」)について
レカネマブは、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です1, 2。
欧州委員会による本剤の承認は、エーザイが実施したグローバル臨床第Ⅲ相試験であるClarity AD試験のデータ等に基づくものであり、本試験でレカネマブは主要評価項目とすべての主要な副次評価項目を統計学的に有意な結果をもって達成しました1,2。Clarity AD試験は、脳内アミロイド病理が確認された早期 AD(ADによるMCIまたは軽度認知症)の被験者1,795名を対象とした、18カ月間のプラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、無作為化、グローバル臨床第Ⅲ相試験であり、そのうち1,521名がEUの適応として承認された対象集団(ApoEε4が非保有またはヘテロ接合体)でした2。被験者は、レカネマブ投与群またはプラセボ投与群に1:1で割り付けられ、レカネマブ投与群にはレカネマブ10mg/kgが2週間ごとに投与されました2。
Clarity AD試験では、EUにおける適応の対象集団(ApoEε4が非保有またはヘテロ接合体の被験者であり、本集団においては、対照群ベースの多重代入法によって解析が行われました)において、18カ月間のレカネマブ(n=757)による治療により、プラセボ(n=764)と比較して主要評価項目であるCDR-SB2で臨床症状の悪化を31%抑制しました1。ベースラインにおける平均CDR-SBスコアは、両グループとも約3.2でした1。18カ月時点でのベースラインからの調整最小二乗平均変化は、レカネマブ投与群で1.217、プラセボ群で1.752であり、変化量の差は−0.535(95%信頼区間[CI]、−0.778~−0.293)でした1。CDR-SBは、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会の活動、家庭状況と趣味、身の回りの世話の6項目について評価する全般臨床症状の評価指標です6。
また、副次的評価項目の一つである介護者により評価される日常生活動作スケール(ADCS MCI-ADL)では、18カ月時点でプラセボと比較して33%の悪化抑制を示しました1。ADCS MCI-ADLスコアの18カ月時点でのベースラインからの調整平均変化は、レカネマブ投与群で−3.873、プラセボ群で−5.809であり、変化量の差は1.936(95%CI、1.029~2.844)でした1。ADCS MCI-ADLでは、当事者様が服を着たり、食事をしたり、地域社会の活動に参加したりする能力など、患者が自立して生活する能力を評価します7。その他、重要な副次評価項目であるアミロイドポジトロン断層法(PET)測定(センチロイド法)による脳内アミロイド蓄積やADAS-Cog14においても、レカネマブ投与群はプラセボ投与群と比較して統計学的に高度に有意な結果(P<0.001)が認められました1。
安全性に関して、EUの適応として承認された対象集団であるApoEε4が非保有またはヘテロ接合体の被験者(n=757)において、レカネマブ投与群で最も多く見られた有害事象はInfusion reaction(26%)、ARIA-H(13%)、頭痛(11%)、ARIA-E(9%)でした。そのうち、症候性のARIA-Hは0.8%であり、ARIA-Eは2%で発現しました1。
「レケンビ」は、日本、米国、中国、欧州(EU)、韓国、台湾、サウジアラビア等、48の国と地域で承認を取得しており、10カ国で申請中です。18カ月間の隔週投与による初期治療後の4週に1回の点滴静注維持投与について、米国において承認を取得し、9つの国と地域で申請中です。皮下注射製剤維持投与について、2025年1月に生物製剤承認申請(BLA)が米国食品医薬品(FDA)に受理され、PDUFAアクションデートは2025年8月31日に設定されました。
2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health傘下のNational Institute on Agingによる資金提供を受けています。また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。本試験において、レカネマブは抗Aβ療法による基礎療法として選定されました。
2. エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について
エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。
3. エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について
2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療剤の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。
4. エーザイ株式会社について
エーザイ株式会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念とし、この理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患をターゲットに革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
また、当社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット(3.3)である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧に向けた活動に世界のパートナーと連携して積極的に取り組んでいます。
エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。SNSアカウントX、LinkedIn、Facebookでも情報公開しています。
5. バイオジェン・インクについて
1978年の創立以来、バイオジェンは世界をリードするバイオテクノロジー企業で、患者さんの人生を変革し、株主や私たちのコミュニティに価値をもたらす新薬をお届けするために革新的なサイエンスを開拓しています。私たちは優れた治療アウトカムをもたらすファースト・イン・クラスの治療薬や治療法を推進するために、人類の生物学に対する深い理解を応用し、異なるモダリティを活用します。私たちは長期的な成長をもたらすために投資利益率のバランスを考慮した上で、果敢にリスクを取るというアプローチを採択しています。
バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/ およびSNS媒体X、LinkedIn、Facebook、YouTubeをご覧ください。
- European Medicines Agency Summary of Product Characteristics (SmPC)
- van Dyck, C.H., et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. New England Journal of Medicine. 2023;388:9-21. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212948.
- Amin L, Harris DA. Aβ receptors specifically recognize molecular features displayed by fibril ends and neurotoxic oligomers. Nat Commun. 2021;12:3451. doi:10.1038/s41467-021-23507-z.
- Ono K, Tsuji M. Protofibrils of Amyloid-β are Important Targets of a Disease-Modifying Approach for Alzheimer's Disease. Int J Mol Sci. 2020;21(3):952. doi: 10.3390/ijms21030952. PMID: 32023927; PMCID: PMC7037706.
- Froelich L., et al. Lecanemab for treatment of individuals with early Alzheimer’s disease (AD) who are apolipoprotein E E4 (ApoE e4) non-carriers of heterozygotes. Poster presented at German Association for Psychiatry, Psychotherapy and Psychosomatics (DGPPN) conference, November 2024
- Morris, J.C. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology. 1993;43:2412-2414.
- Pedrosa, H., et al. Functional evaluation distinguishes MCI patients from healthy elderly people–the ADCS/MCI/ADL scale. The Journal of Nutrition, Health and Aging. 2010;14(8):703–9.