丹羽聡美さん

「気にしなくてもいいよ」
夫のひと言が自分を受け入れるきっかけに

仕事をしながら、2歳の男の子の子育てに奮闘中の丹羽聡美さん。おだやかな佇まいの内側には、「多発性硬化症(以下、MS)は私の個性のひとつ」と、辛い気持ちや落ち込むことからも目をそらさず、ありのままの自分と向き合う芯の強さを併せ持っています。

28歳の頃、目がかすんで見えにくいような、違和感を感じはじめました。眼科で視野が欠けていることがわかったので大学病院であらためて診てもらったら、視神経脊髄炎(NMO)と診断されました。その後、片方の目の視界が真っ白になる症状を繰り返したので、ほかの病気の可能性があるのではと、入院して再検査したところ、MSと診断されました。最初の目の違和感から5年後のことでした。

MSと診断されたときはあまりピンとこず、とにかく得体の知れない病気になってしまったなと。“難病”という響きのインパクトが大きかったことだけは覚えています。自分自身がダメなものになってしまったような。そんな不安と戸惑いでいっぱいだったとき、支えになったのは夫の言葉でした。「気にしなくていいよ。個性がひとつ増えたと思えばいいんじゃない」。いつもと変わらないトーンで返ってきた夫のひと言が、私の中でストンと腑に落ちました。それまではどちらかというと自分の限界を考えずに頑張りすぎるところがあったんです。でも自分がMSになったのを機に、病気や環境によってやりたくてもやれない人がいるんだと、周りの人の背景に思いを馳せられるようになりました。そういう考えができるようになって自分自身も楽になりました。

とはいえ、やっぱりMSの症状がある時期は辛いです。出産後に再発したときは、常に手足がビリビリと痺れている状態で子どもを抱っこしたり世話をするのが本当に大変でした。だから、今私が同じMS患者さんに伝えたいのは、「辛いときは辛いと、遠慮せず発信しましょう」ということ。MSの症状は傍目に辛さがわかりづらく、気づいてもらうのも難しいです。だから、つい無理をしすぎてしまう患者さんも多いと思います。でもそうやって自分でも気づかないうちに我慢してストレスを溜め込んでしまうと、私の場合は再発につながってしまいます。

今、私は夫とお互いの家族のサポート、そしているだけでエネルギーをくれる子どものおかげで、自分らしく無理のない暮らしを送っています。好きなことや元気でいることを意識すれば、体とも冷静に向き合うことができる。MSを自分のひとつの個性だと考えて、前向きに楽しく過ごしていきたいと思います。

撮影:国分真央 MAO KOKUBU
フォトグラファー。東京都出身。広告、PR、CDジャケット、書籍表紙など、
Instagramを中心に幅広く活躍中。