本資料は、米バイオジェン社が 2025年7月30日(現地時間)に発表したプレスリリースの日本語訳として発表させていただくものです。内容につきましては原本である英文が優先します。

 

「レケンビ®」の2年間の米国のリアルワールド研究報告をアルツハイマー病協会国際会議(AAIC)2025において発表

    エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク(Nasdaq:BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:クリストファー A. ヴィーバッハー、以下 バイオジェン)は、このたび、カナダ トロントおよびバーチャルで開催中のアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference:AAIC)2025において、抗Aβプロトフィブリル*抗体であるレカネマブ(一般名、製品名「レケンビ®」)の米国における2年間のリアルワールド研究の結果を発表したことをお知らせします。レカネマブは、プロトフィブリルとアミロイドプラークの双方をターゲットとする唯一のアルツハイマー病(AD)治療剤であり、その後のタウ蓄積にも影響を与えることが期待されます。

    レカネマブは、米国においては、2023年7月に早期AD治療薬として、フル承認を取得しました。今回の研究は、米国の15の医療施設を対象としたリアルワールドにおけるレカネマブによる治療の実態をレトロスペクティブに調査するものであり、最終報告はエーザイの2025年度第3四半期中に予定されています。今回の発表は、2025年7月1日時点の中間報告の位置づけとなります。

当事者様のベースライン情報と治療の実態
    今回の中間報告段階では、米国の9つの医療施設から178人の早期AD当事者様の情報を標準化された症例報告を用いて収集しました。本報告におけるベースライン時の当時者様の病期は、ADによる軽度認知障害(MCI)は57.6%、ADによる軽度認知症は42.4%でした。当事者様の平均年齢は74.2(±6.6)才、男性と女性の比は44.6:55.4でした。
    レカネマブの治療期間は平均375.4日(±182.8日)でした。診断から初回治療までの平均期間は224.2日(±295.4日)であり、レカネマブの治療回数の平均は24.8回(±11.5回)でした。本報告時点で、87.4%の当事者様(152人)がレカネマブによる治療を継続していました。治療の中止の理由となった有害事象として、ARIA-E(ARIAによる浮腫/浸出)は2人(1.1%)、ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、脳出血、脳表ヘモジデリン沈着)は2人(1.1%)、ARIA-EとARIA-Hを併発された方が1人(0.6%)でした。ARIA以外の有害事象による中止は3人(1.7%)でした。その他、個人的な事情や、医師やご本人の判断による中止が11人(6.3%)と報告されました。
    本調査に参加された当事者様の83.6%で臨床症状が同じ疾患ステージでの維持、または軽度認知症からMCIへ臨床症状の改善が観察されました(維持:76.9%、改善:6.7%)また40回以上(18カ月以上)の投与を受けた当事者様の86.7%で疾患ステージの維持または改善が観察されました(66.7%:維持、20.0%:改善)。
    178人の当事者様のうち、23人(12.9%)でARIAの発現が観察されました。ARIA-Eの発現は、14人(7.9%)であり、その内12人(6.7%)は無症候でした。ARIA-Hの発現は11人(6.2%)で、全て無症候でした。Infusion reactionは4人(2.2%)で観察されました。また、重大な出血イベント、死亡例の報告はありませんでした。

APOE4ステータスの影響について
    今回の対象178人のうち、ステータスが不明であった12人を除く166人において、APOE ε4ホモ接合体保有者30人(18.1%)、ヘテロ接合体保有者84人(49.4%)、非保有者54人(32.5%)でした。ホモ接合体保有者の割合は一般的なAD当事者様における割合とされる15%以上とほぼ同様でした。
    APOE4ステータス別のARIAの発現率は、ホモ接合体保有者、ヘテロ接合体保有者、非保有者でそれぞれ、20.0%、9.8%、14.8%でした(臨床第Ⅲ相Clarity AD試験18カ月のコア試験では、それぞれ45.0%、19.0%、13.0%)。ホモ接合体保有者のARIA-E発現率は13.3%、ARIA-H発現率は10.0%であり(Clarity ADのコア試験ではそれぞれ32.6%、39.0%)、米国FDA承認ラベルの範囲内でした。ARIA発現の大半は無症候性で、重篤な症例は少数であり、またARIA発現による投与中止例も少数でした。
    有効性については、ホモ接合体の73.3%が疾患ステージの維持、または改善(維持:66.6%、改善:6.7%)、ヘテロ接合体の88.0%が疾患ステージの維持または改善(維持:83.0%、改善:4.9%)、非保有者の85.2%が疾患ステージの維持または改善(維持:75.9%、改善:9.3%)を示しました。

血液バイオマーカー(BBM)の活用
    ADにおけるBBMは、脳内Aβ病理を確認するために開発されており、プレスクリーニング(トリアージ)や確定診断における使用が想定されています。今回の対象178人のうち、49人(27.5%)でBBMを用いた診断が行われ、その一部(11人、6.1%)では確定診断にも使用されていました。臨床現場から収集されたデータによると、米国のBBMの検査数は4~8カ月ごとに倍増しており、中でもp-tau217を使用したBBMは最も急速に増加していました。

レカネマブによる治療に関する満足度
    「レカネマブ」に対する医師の満足度調査を実施しました。本調査は、今回の研究に参加している医療施設の医師9名を対象にしたアンケートおよびインタビューに基づいており、治療効果、安全性、生活の質(QOL)など多角的な視点から評価されています。
    医師による評価として、治療効果・安全性に対する満足度(10点満点の平均点)はそれぞれ8.7点でした。項目別では、認知機能:8.1点、日常機能:8.1点、行動・精神症状:7.9点、QOL:8.0点でした。また、医師による評価としての当事者様満足度:8.8点、介護者の満足度:8.2点でした。これらの結果は、実臨床においてもレカネマブの有効性と安全性に対する高い評価が得られていることを反映しており、レカネマブの価値を裏付けるものです。

注:リアルワールド研究(実臨床下での後ろ向き研究)は、臨床試験データを補完する追加情報を提供するうえで非常に有用です。ただし、以下のような制限点があることに注意が必要です。
バイアスの可能性:便宜的なサンプリングにより選択バイアスが生じる可能性があります。
    ※症例選定基準を定めることでバイアスの軽減を試みています。
データの完全性と一貫性:異なる施設・担当者によってデータが収集されるため、一貫性に欠ける可能性があります。
    ※標準化された電子症例報告フォームへのアクセスを提供することで軽減を試みています。
対照群の欠如:プラセボ対照群が存在しないため、データの解釈に限界があります。
交絡因子の影響:薬剤投与と結果の関係に影響を与える交絡因子を制御できない可能性があります。

    レカネマブは、エーザイが開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

*   プロトフィブリルは、ADによる脳損傷に寄与し、この進行性の深刻な疾患の認知機能低下に主な役割を果たす、最も毒性が高いAβ種であると考えられています。プロトフィブリルは脳内の神経細胞の損傷を引き起こし、その結果、複数のメカニズムを介して認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります。そのメカニズムとして、不溶性アミロイドプラークの発生を増加させるだけでなく、神経細胞やその他の細胞間のシグナル伝達に直接的な損傷を起こすことも報告されています。プロトフィブリルを減らすことで、神経細胞への損傷や認知機能障害を軽減させ、ADの進行を防ぐ可能性があると考えられています

以上

参考資料

1. レケンビについて
   「レケンビ」(一般名:レカネマブ、米国ブランド名:「LEQEMBI®」)は、バイオアークティックとエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。プロトフィブリルは、ADによる脳損傷に寄与し、この進行性の深刻な疾患の認知機能低下に主な役割を果たす、最も毒性が高いAβ種であると考えられています。プロトフィブリルは脳内の神経細胞の損傷を引き起こし、その結果、複数のメカニズムを介して認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります。そのメカニズムとして、不溶性Aβプラークの発生を増加させるだけでなく、神経細胞やその他の細胞間のシグナル伝達に直接的な損傷を起こすことも報告されています。プロトフィブリルを減らすことで、神経細胞への損傷や認知機能障害を軽減させ、ADの進行を防ぐ可能性があると考えられています。
   「レケンビ」は、日本、米国、中国、欧州(EU)、韓国、台湾、サウジアラビア等、46の国と地域で承認を取得しており、10カ国で申請中です。2025年1月、米国において、静注(IV)維持投与に関する生物製剤一部変更申請(sBLA)が承認され、レカネマブは18カ月間の隔週投与による初期治療後、10mg/kgの4週に1回の維持投与レジメンへの移行を検討するか、もしくは10mg/kgの隔週投与レジメンを継続することができるようになりました。皮下注射製剤維持投与について、2025年1月に生物製剤承認申請(BLA)が米国食品医薬品(FDA)に受理され、PDUFAアクションデートは2025年8月31日に設定されました。

   2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health傘下のNational Institute on Agingによる資金提供を受けています。また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。本試験において、レカネマブは抗Aβ療法による基礎療法として選定されました。

2. エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について
   エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

3. エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について
   2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療剤の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。

4. エーザイ株式会社について
   エーザイ株式会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念とし、この理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患をターゲットに革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
   また、当社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット(3.3)である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧に向けた活動に世界のパートナーと連携して積極的に取り組んでいます。
エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。SNSアカウントXLinkedInFacebookでも情報公開しています。

5. バイオジェン・インクについて
   1978年の創立以来、バイオジェンは世界をリードするバイオテクノロジー企業で、患者さんの人生を変革し、株主や私たちのコミュニティに価値をもたらす新薬をお届けするために革新的なサイエンスを開拓しています。私たちは優れた治療アウトカムをもたらすファースト・イン・クラスの治療薬や治療法を推進するために、人類の生物学に対する深い理解を応用し、異なるモダリティを活用します。私たちは長期的な成長をもたらすために投資利益率のバランスを考慮した上で、果敢にリスクを取るというアプローチを採択しています。
   バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/ およびSNS媒体XLinkedInFacebookYouTubeをご覧ください。

参考文献
  1. Amin L, Harris DA. Aβ receptors specifically recognize molecular features displayed by fibril ends and neurotoxic oligomers. Nat Commun. 2021;12:3451. doi:10.1038/s41467-021-23507-z.
  2. Ono K, Tsuji M. Protofibrils of Amyloid-β are Important Targets of a Disease-Modifying Approach for Alzheimer's Disease. Int J Mol Sci. 2020;21(3):952. doi: 10.3390/ijms21030952. PMID: 32023927; PMCID: PMC7037706.
Biogen- 270172